ドイツに戻ってきました(後編)
ドイツに戻ってきたのは2月5日だったのですが、そのことの前編を書いてから気がつくと1カ月が流れ去っていました。
刻々と状況が変化し、まだまだ続きそうなコロナ禍の真っ只中にあって、1カ月前の話って実用情報の価値を急速に失っていきますね…改めて感慨深く思います。
まぁいいや。とりあえず、自分にとっての忘備録として書いていますので、よかったらお付き合いください。
ドイツでは2020年の12月27日からワクチン接種が始まりました。年が明けてからは感染率の高い地域で移動制限が出たり、公共交通機関利用や買い物の際にFFP2マスク(米規格のN95マスク)の着用が義務付けられるようになりました。
一方の東京では非常事態宣言が発令され、1月下旬にドイツへの飛行機を取っていた私はこの時点で移動を見合わせ、フライトを2週間延期することにしました。少し待てば、状況が落ち着くかなという希望的観測のもとに…
そして2月5日にドイツに戻ったのですが、この時にはさまざまな規制が功を奏してか、それまでずっと「高止まり」と言われていた感染者数がじわじわと下降に入り始めていました。
ドイツでは7日間指数(7日間以内の人口10万人あたりの新規感染者数)が200を超えると、その地域では移動制限が出ていたのですが、戻ってきた時、私の住んでいる地域の指数は78まで減っていました。
日本を飛び立つ前の東京ではまだ非常事態宣言が続いており、さらに英国から帰国した人に変異株ウイルス感染が確認されたニュースなどで連日持ちきりでした。家族や身近な人たちからは「本当に帰るの?」と何度も聞かれました。
しかし実際のところ空港も飛行機もがらがらで、移動に関しては危険を感じることはほとんどなく、フランクフルト到着後は検疫もなく(日本はドイツでリスク地域に入っていない)そのままするっと出て来れました。
羽田発の時間が夜中の0時台だったので、コロナ対策もあってお店が全部閉まっている閑散とした空港ロビーから出発し、フランクフルトに着いたのは朝の5時台。
税関を抜けて到着ロビーに出てきたとき、すでに営業していたパン屋のカウンターから焼きたてのパンとコーヒーの香りが漂ってきたときは、涙出そうになりました。
コロナ禍で息を潜めて生きている中で、以前と同じ人の営みが普通に感じられる時って、こんなにうれしいんだなと実感した次第です。
そのまま、フランクフルト空港駅のスタバでコーヒー買って、自宅の最寄り駅まで直通の特急列車のICEに乗り、3時間かけて家まで帰りました。
ICEはフランクフルトのあるヘッセン州からシュトゥットガルトのあるバーデン=ヴュルテンベルク州を抜けて、私の住んでいるバイエルン州というルートを走るのですが、地域がバイエルン州になった途端に警察官がマスクコントロールに乗り込んできて、マスクを外している乗客に注意して回っていました。
私の近くにいた男性と警察官が口論になったときに、「諦めてください、ここはバイエルン州なんで。文句があるならCSU(バイエルン州の政権政党)までどうぞ」と警察官が言い返していたのが聞こえました。
保守勢力の強いバイエルン州は、コロナになってからも取り締まりが他州と比べて厳しいんですよね。それだけ感染者数も多いのですが。
そんな感じで、私自身はびっくりするほど問題なく日本からドイツに戻ってくることができました。
帰国後10日間は自宅待機で、スーパーマーケットなどへの買い物は禁止。同居の友人に頼んで買い物はしてもらい、なるべく部屋から出ないようにして過ごしました。
帰国から3日後には、バイエルン州に在住していれば無料で受けられるPCR検査を受けに、市電で20分ほどかけてメッセ会場まで出かけて行きました。
私の場合は、リスク地域からの帰国ではないので任意での検査だったのですが、このPCR検査は基本、ドライブスルー方式で自家用車で受けに来るのが原則でした。ただし、帰国後10日以内でも発熱などの症状がなければ、公共交通機関を利用してもよいとのこと。
月曜日の午前中にネットで予約を入れると、当日の午後には取れました。
「あれ、こんなに空いているんだ」とやや拍子抜けして検査会場に行ったら、やはり現場もがらがらで、完全防護服で待機している検査係員の皆さんが退屈そうにしていました。
受け付けで迷っているおじいさんが1人いたのですが、どうもワクチン接種会場と間違えて来てしまったみたいでした。
検査方法は、長い綿棒を喉の奥に突っ込まれるというもので一瞬で終わり、バーコードと整理番号のついた紙をもらい、結果は48時間後にネット上で「陰性」を照会できました。書面での陰性証明は1週間後くらいに届きました。
私が出てきた時の日本では、公式なコロナ検査の数が少なすぎるとずっと言われており、発熱などの症状が出た後も、検査が受けられずに家で待機している人がいるという話も聞きました。そういった状況を背景に、いわゆる「野良検査」と呼ばれる民間業者の有料PCR検査が増え始めていました。一方で、ワクチンはまだ到着していませんでした。
それに比べると、コロナに対する医療ケアがすべての市民(国民ではなく市民)を対象に稼働しているドイツの状況には、未開国から文明国へ来たかのような差を感じました。
また、自宅待機期間がある一方で、条件付きで公共交通機関が使えることなど、検疫体制としてはユルいのかもしれないけれど、人道的な配慮がされていることにも違いを感じました。
ただし、感染症対策のための社会生活制限に長期間耐えるには、人は自由を享受することに慣れすぎてしまったんだろうなぁと、自分を顧みても、身近なドイツ人を見ていても思います。
ドイツでは、ロックダウン下の社会生活制限を、ナチスのユダヤ人迫害政策と引き比べて批判する人たちがいるそうですが、これだけ目的と因果関係がはっきりしていても、それを不当で、自分の自由への侵害だと認識する人たちもいるわけです。
ドイツ政府の公的検疫機関、ロベルト・コッホ研究所(RKI)は3月11日、再び増加に転じたドイツ国内の感染者数を分析して「ドイツに第3波が到来した」と発表しました。
3月19日時点でのドイツ国内の7日指数は95.6(RKI発表)。
コロナとの戦いはまだまだ続きそうです。